この事例の依頼主
女性
相談前の状況
ご相談者様は、就職直後から上司のパワハラに悩まされており、上司に対して慰謝料を請求したいということで、ご相談にいらっしゃいました。事情をお伺いしたところ、録音データや日記などのパワハラの証拠がそれなりにあり、慰謝料の請求も可能ではないかと思われたため、ご依頼をお受けすることになりました。その後、まずは上司に対して慰謝料の請求を求めて交渉をしていましたが、交渉途中で、突然、使用者が上司を擁護する形で介入してきました。しかしながら、使用者の対応は、パワハラの調査を適切に行ったと言えるのか疑問の余地があるものでした。そこで、上司のパワハラそれ自体だけでなく、使用者の調査等の対応が不適切であることをも理由に、使用者に対して慰謝料を請求したほうがよいのではないかと助言し、訴訟を起こすことになりました。
解決への流れ
訴訟においては、上司のパワハラが違法であることについて、録音データ以外にも様々な証拠を引用しながら強く主張していきました。また、使用者の対応についても、録音データの存在を把握していたのに確認しなかったことなど、ずさんな調査が行われていたのではないかという点を強調しました。使用者側はパワハラの存在を頑なに否定し、調査についても適切であったと主張していましたが、裁判所としては、少なくとも一部についてはパワハラがあったという心証を抱いてくれたようでした。その上で、使用者側から退職するのであれば解決金の支払に応じるとの申出があったことや、こちらも転職先がスムーズに見つけられたこともあり、裁判所の主導で100万円の解決金をもって和解することになりました。
パワハラについては、適切な指導の範囲を超えているかどうかの評価が微妙なものが多く、本件も、その点が大きな問題となりました。本件では、指導の際の言葉の使い方が不適切であったことや、就職直後であることへの配慮が必ずしも行き届いていなかったことなどの事情があり、適切な指導の範囲を超えるという主張を展開しやすい事案でした。和解に関しては、最初、使用者側から提示された金額は50万円ほどでしたが、こちらの主張に裁判所が共感してくれたのか、裁判所主導の和解案は倍の100万円になりました。本件は、法的に厳密に考えると、どこまで違法なパワハラと言えるのか微妙な部分も多かったのですが、大きな方向性として、こちらのほうがかわいそうではないかと裁判所に思わせることができた点が、和解金額の増額につながったように思います。その意味で、裁判においては、法的な主張だけでなく、裁判官の素朴な正義感に訴えるような主張を展開することも重要であるということが言えるのではないかと思います。