犯罪・刑事事件の解決事例
#遺言 . #遺産分割 . #相続登記・名義変更

亡父の公正証書遺言があることから、亡父の死去後、亡父の遺産である不動産を相続登記しようとしたところ、「遺言書に書かれている不動産が現存していない」という理由で相続登記ができず、裁判により実現できた事例

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上條 義昭 弁護士が解決
所属事務所千代田法律・会計事務所
所在地東京都 千代田区

この事例の依頼主

60代 男性

相談前の状況

6人兄弟姉妹の長男として生まれたことから、亡父の家業(金属加工業)を20代から何十年も手伝い、亡父が高齢となって第一戦を退いてからは、長男夫婦で、金属加工業工場を営んできていたところ、近隣が等価交換で分譲マンションを建てる時代の流れとなり、相談者のところにも等価交換方法による分譲マンション建築の話が来たことから、長男が亡父と相談し、等価交換の話に応じることにし、亡父名義の土地と建物をマンション業者に一旦売却して金属加工事業を廃止し、完成後のマンションのうち好条件の部屋数室とその敷地権を交換資産として取得することになった。その時期は平成10年代に入ってからであった。亡父は、長男が二十歳の頃から亡父の経営していた町工場を手伝い、長男結婚後も、親と一つ屋根の下で生活してきていることから、等価交換の話が出る相当前の昭和50年代に、町工場のあった「土地とその上の自宅兼工場を長男に相続させる」内容の公正証書遺言書を作ってくれていた。次男には次男が居住しているマイホーム用地を相続させることであった。亡父は、他の兄弟姉妹のうち、4人の姉妹にはそれぞれ、結婚するときや結婚後の時期に一定の現金を贈与し、次男には、別の土地をマイホー用地として提供していた。長男は、等価交換で亡父が貰ったマンションの部屋数室うち、自分たちが住む部屋(一番広い部屋)以外の等価交換で得た他の部屋は他人に貸し、その賃料収入は、亡父名義で預金していた。亡父は90歳過ぎまで長生きして亡くなった。 亡父の妻(相談者の母)は昭和の年代に死去していた。亡父死去後、長男が、亡父の遺言書を使い、等価交換で得たマンションの区分所有権と敷地権を長男名義に相続登記をしようとしたが、遺言書には等価交換前の「一筆の土地とその上にある建物」を長男に相続させる内容であったことから、遺言書に書かれている「遺贈する物件」が現実に存在しない故に法務局は受け付けず、遺言書での相続登記が出来なかった。仕方なく、長男が他の5人の兄弟姉妹に、亡父が遺言書を作成してくれた経緯と遺言書の内容を説明し、長男単独名義に相続登記する方向で協力を求めて、その旨の遺産分割協議書を作る案を提示した。しかし、他の相続人(兄弟姉妹)は、「亡父の遺言書は、対象となる目的物が既に存在しないから、無効である。」と主張し、長男の永年の家業への貢献への配慮も全くしてくれず「交換資産で亡父が取得したマンションの区分所有権とその敷地権について、法定相続人平等であり、長男には6分の1しか権利がない。」ということを頑なにいい続けて、亡父の遺志を尊重した方向での相続登記を進める協力は得られなかった。そこで困ってしまい、相談に訪れた。

解決への流れ

「亡父の遺産を全て長男に相続させる遺言書」が無効になると、長男は等価交換で亡父が得た物件について全体の6分の1しか権利が無い事になるため、長男が居住中のマンションの広い部屋を残すためには、相当額の金員を代償金として他の5人の相続人に支払わざるを得ない窮地に陥ることが予測された。もし代償金として他の5人の相続人に支払う資金捻出出来なければ、現在他人に貸している狭い部屋(亡父の遺産全体の6分の1相当価格のマンションの1室)につき居住者に立ち退いて貰い、そこに移り住むしか選択肢が無い状態であった。亡父の「遺言書」を有効に出来れば、長男夫婦が亡父と同居し、厳しい作業環境の金属加工業で永年働き続け貢献してきたことにつき長男が報われることになるし、何よりも亡父の意向に沿った形での遺産相続を可能にするものであった。長男から相談を受けた後、長男の事案は「遺贈の物上代位(民法999条2項)」を使うことが可能であると思い、その後この条文が使えるという判断が出来たことから、この条文を根拠に「亡父の遺言書が有効である」という論理構成して、他の兄弟姉妹と話し合った。しかし、他の兄弟姉妹は、亡父の遺言書を尊重する方向での解決案に乗ってくれる意思が無かった。そこで仕方なく、長男が原告になり、他の兄弟姉妹を被告にして、等価交換で亡父が取得した不動産について、「亡父の遺言書が有効である」ことを根拠に、「等価交換で亡父が得たマンションの区分所有権と敷地権」に関し、「長男への単独相続登記」に応じるよう裁判を起こした。遺贈の物上代位(民法999条2項)の論理は、亡父の遺言の対象物は一筆の土地とその上にあった建物であったところ、その土地建物の代わりに亡父が得たものが「マンションの区分所有権と敷地権」であり、遺言書で書かれている土地建物は無くなくなっているけれども、遺言の対象物が等価交換で亡父が得たものに形が変わったに過ぎないので、実質亡父が長男に相続させると遺言した対象物は、「マンションの区分所有権と敷地権」として形を変えても残っている故に、長男は、その形の変わった「マンションの区分所有権とその敷地権」を、亡父の遺言の対象物として相続承継したという理屈です。この理屈が、その事件を扱った裁判所で認められることになり、長男は、亡父の遺産全体の12分の1ずつ(合計12分の5)を5人の兄弟に渡し、残りの12分の7を残すことが出来るかたちでその後、和解が出来、長男の居住していた部屋はそのまま残せるほか、別の部屋の区分所有権も屋も残すことが出来た。この事件は、4人の姉妹は、亡父から結婚したとき等に一定の現金を貰って居り、姉妹に現金を贈与して亡父のメモ(手帳の記載)も見つかったが、姉妹が亡父からその生前現金を貰ったことを否定したことから、それは証明できずに終わり、姉妹の特別受益として加えること出来ないままに終わった。

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上條 義昭 弁護士からのコメント

遺産相続の紛争は、昔に比べて増えてきている実感である。相続紛争を防止する目的で遺言書を作成するケースも多いが、遺言書をせっかく作成しても、遺言書の内容でトラブルが起きることしばしばである。今回の相談者のケースは、遺言書の作り方に問題点があり、「次男に相続させるものを除いて、長男に相続させる」という内容等、将来にける財産の変更を意識して作成したものであったならば、遺言書の無効の問題は起きなかった。今回の相談者のケースでは、亡父が遺言書を作る際に、専門家に相談せず証人を2人頼んで公証役場で作成したために、長男が亡父の遺言書で本来貰えた不動産が形を変えてしまっていたことから、亡父死去後、そのままスムーズに相続できない困難に直面してしまった。相続トラブルは多種多様であるが、遺言書を作る者は、作る際に、せっかく作成した遺言書の内容が「不備」のため将来相続人間で無用なトラブルが起きないようにすることが大切であることを示す一つの事例である。