この事例の依頼主
60代 男性
相談前の状況
妻が亡くなり,その相続人は私と長女になります。妻は自筆証書遺言を作成していて,A社の株式全部について長女に取得させるという内容の遺言となっていて,その遺言書についての検認手続は既に終了しています。妻の遺産はA社の遺産以外にも預金などがあるのは分かっていますが,預金通帳などはすべて長女が持ち出していて,預金残高などはわかりません。今後,どのように対応したらよいのでしょうか。
解決への流れ
弁護士に依頼して亡妻の遺産を調べてもらったところ,亡妻の遺産全体ののうちでA社の株式の価値が占める割合が3割程度であることが分かりました。そこで,A社の株式を除いた遺産のうち,私と長女が5対2になるように分配することを提案し,そのような形で遺産分割協議を解決することができました。
自筆遺言の存在により,A社の株式については何等の手続を要することなく長女が取得することになります(最二小判平3.4.19民集45巻4号477頁)。他方で,この最二小判平3.4.19は,「遺産分割の協議又は審判においては,当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもない」と明言していることから,残りの財産についての遺産分割に関しては,相続させる遺言により長女がA社の株式を取得した分を持ち戻して,特別受益と類似の処理をした上で残りの遺産を分割すべきことになります(広島高岡山支決平17.4.11家月57巻10号92頁,坂本由喜子・判タ臨増1215号138頁(平17主判解),司法研修所編『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』(法曹会,1994)64頁以下)。